6 ミッシェルを聴いて
穏やかなアドリア海とそれに沿って続く散歩道。カモメ系統の鳥が数羽、この国でも鳥類は朝が早い。綱無し首輪有りの犬が一頭、飼い主らしき人がいるが、続柄を裏付けるものは確認できないほど遠い。古くからのリゾート地オパティアに似つかわしくない安宿の一室で、なかなか目覚めないクロアチアン一人、名前はブランコ。遠くに見えるのは対岸の町。この辺りは小さな湾になっているから水平線は見えない。夜が明け新しい朝がフェードインするのを眺めながら、町の時計台へ向かって飛んでくる魔女と黒猫を待っているジャパニーズが一人。それが僕。恥じらいもなく大好きな映画の風景と重ねてしまう、そんな気持ちにさせてしまう表情がオパティアの朝にはあった。
結局昨日はブレッドを出てから特に観光することなくひたすら南下した。途中、ガソリンスタンドとセットになったコンビニエンスストアに数回停まって、疲れたブランコをレッドブルで励ました。レッドブルは国籍を選ばないようで、ブランコはとてもハイになっていた。恋人の話を少なくとも2時間は聞いていたように思う。しまいには自分をクロアチアン、シューマッハだと言い出してきかないほどの効き目だった。しかし反面、急激に登れば下りは急降下。なんとかホテルに転がり込んだ後、わずかな酒で眠ってしまい未だ起床しない。疲れたのか酔ったのか。後者であれば相当弱い。この旅の終わりまでに、一度は二人でゆっくり飲みたいと思っているのに、実現するだろうか。羽馬ブランコの復活を待つしかない。
海岸沿いのオープンカフェで、地図を広げ考えていた。ここからのルートをどうするか。予定では、イストラ半島を海岸沿いに進み、イタリア、トリエステを目指すことになっているが、クロアチア方面にアドリア海を下れば、あのドゥブロブニクがあるじゃないか。しかも、ブランコの話では、クロアチア本土とは接しておらず、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ領を挟んだ飛び地になっているという。これは面白そうだ、それに今回は旧ユーゴを行く旅なのだから、むしろそちらを選ぶべきだ。
どれくらい走っただろうか。確かに美しいこの海岸通りも、かれこれどれくらい同じ景色なのか。そして、どれくらいの間、二人は言葉を発していないのだろうか。道は右へ左へ緩やかなカーブの連続、右にハンドルを切るたびに、ブランコの大きめのサングラスがチカチカ日差しを反射する。唯一表情をうかがえるかもしれない口元は、常に半笑いの表情でガムをクチャクチャやっている。無機質に過ぎるそんな時間は、悩める自分を、現実世界に連れ戻し、じわじわと嫌らしく、人生について考えさせる。どこへ向かえばいいのか。左手に続いていた石灰岩の大規模な石切り場を過ぎると、視界が一気に開けた。車内にはいつからか、緩やかな音楽が流れている。ミッシェル。ポール・マッカートニーの抜けた声は、掴みどころのないこの海岸線に良く合う。古いナンバーに聞き入りながら、若き日のポールのアーティストライフをイメージしながら、少しずつ原点に戻ろうとしている自分がいた。ポールが最終コーラスを終えようとしたとき、ようやく見えてきた大きな町がある。そこはスプリット。ブランコもうれしそうに、何かを叫んでいたが、何を言っていたのかはわからない。
つづく
Mateo=Rich


1枚目の写真が美しい。
返信削除一瞬「え、瀬戸内海?」なんて思っちゃったけど、ゴメンナサイ。
でも島並みの感じが、故郷に似てます。
今ね。金曜深夜?に
大泉洋ちゃんの「水曜どうでしょう」の再放送してるんだけどね、
ヨーロッパ縦断リベンジ、なの。
・・・思い出した、なんて言ったらおこられるかな?
ひたすら続く美しくも同じような景色、
会話の無くなる車内・・・
楽しくも緩慢な感じが伝わってきます。
がんばれブランコ!
君のハンドルにかかってる!
しの
いつもコメントありがとうございます。
返信削除僕、「水曜どうでしょう」大好きなんです。あとは昔あこがれた「深夜特急」。旅そのものに、強い憧れがあります。洋ちゃんシリーズでも、ヨーロッパリベンジなんていったら、影響受けまくりですよ。
再放送中なんですね。あれ、面白いですよね。
Mateo=Rich
旅の中で原点を見つめ返すことができるのは良い旅の時間ですよね。
返信削除私もいつかそんな旅をしてみたい。
MrYujician