9 陸の方角
深酒明けでむかえるスプリットでの遅めの朝。体調はそこそこ。ややもたれ気味の胃袋も、さわやかな窓の景色を前に、さほど気にはならない。明らかに国籍が違う上半身裸の男が二人、ホテルの窓から外を眺め、何やら楽しそうにお話している景色。外から見た人は、それこそ胃にもたれるかもしれない。ここに来てなんだか旅にも慣れてきた。なるようになればいい。そんな余裕が今はある。もちろん、ブランコの存在あってこそ。さあ、今日は何をしよう。
ブランコのお勧めで目指したのは近くの朝市。そこで食べるサンドウィッチは最高らしい。それを買って、一気に最南端の地、ドゥブロブニクを目指そうという。とてもいいアイデアだと快諾し、徒歩で向かった。朝市は地元の人たちで賑わっていて、品目は果物や野菜が中心。種類が豊富だから、見ているだけでも楽しくなる。会場の一番奥まったあたり、コンテナの側面の一部を切り抜いて、カラフルな日よけをつけたスタイルの露店を見つけると、そこがサンドウィッチのお店だ。大きなメニュー板が二枚かかっているけれど、英語表記ではないようでよくわからない。ブランコ任せで出てきたのはチキンサンド。たっぷり野菜の上にチキン。かためのパンにマスタードの酸味。これでうまくないはずがない。今日も一日、楽しくないはずがない。そんな気分にさせる味だった。
スプリットを出ると、しばらくは、お馴染みの海岸道路が続いていた。それを抜けると今度は肥沃な田園地帯が広がっている。これは意外な展開。道の両脇には柑橘系の露店が並んでいる。クロアチアでこんな景色に出会うとは思ってもみなかったから、思わずミカンを一袋購入して田園風景とともに味わった。大きな紙袋に小ぶりのミカンだったから、とにかく大量だ。その大量のミカンと挑むのは峠道。ひとつ峠を越さねばならない。道幅が狭く、日本のように頑丈なガードレールが完備されているわけではないから、断崖絶壁を走っているようだった。そこを何とか切り抜けると、これもまた不思議なことに、一時的にボスニア・ヘルツェゴヴィナへ入る。10キロもあるかないか程の短い区間。ボスニアと聞くとすぐに紛争を思い浮かべてしまうが、最南部のこのあたりでは、その爪痕を見るようなことはなかった。あったのは、それまでと何も変わらない小さな町の風景と、町はずれにある小さな土産物屋。そのお店は、観光客を見ると、すぐにチョコレートの試食を勧めてくるらしい。特に日本人旅行者の一団が来ると、執拗に勧めるのだという。チョコレートはいらないけど、せっかく入国したんだ、レッドブルでも飲もうと店内に入った。早々に噂のチョコレートが山のように積まれていた。積極販売は無し。伸ばしっぱなしの髭が効いたか。右側の壁に沿って冷蔵ものが並んでいる。左側面は生活用品。奥には冷凍もの。チョコの山を除けば、日本のコンビニエンスストアと内容はほとんど変わらない。冷えたレッドブルを二本とコカコーラを一本、レジ横の怪しげな煙草を一箱、支払いはユーロ可だ。せっかくだからおつりはマルカ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナの通貨)でもらえないかと頼んでみたら、快く応じてくれた。こういうのがうれしい。駐車場でブランコとレッドブルを注入。もう夕方になっていた。
海の方角南向き、夕日がとてもきれい。アドリア海に浮かぶ小さな島々が見えて、そのうちの一つが、夕日をうまく吸収して、小さなモンサンミッシェルを思わせるたたずまい。海を渡ればそこはイタリア。ちょっと肌寒いのは、思いを馳せるのに丁度よかった。陸の方角北を向けば、その先にはボスニア紛争の爪痕残るモスタルやサラエボがある。今夜の宿はドゥブロブニク。確かに一度は行ってみたかった場所の一つだけど、もっと深く引き付けられる何かを、北の方角に感じ始めていた。世界遺産もほどほどに、明日はそっちへ向かってみよう。
つづく
Mateo=Rich


なるほど、確かに小さなモンサンミシェル。
返信削除丘がそのまま集合住宅になっている姿は美しい。
いつか坂の町に住みたい。
ところでマテオさん一行はレッドブルがお好き?
そして相変わらずおいしそうなチキンサンド!
しの
朝からおいしいサンドうらやましい~。
返信削除伸ばしっぱなしの髭が効いたか。って、どんな風貌だったんですか(笑)!?
声をお掛けしにくい風貌は万国共通か?!
きますねー、執拗にレッドブル。
次回もまた登場するのか!?
MrYujician