11 モスタル2/2
旧市街は、創造以上に賑わっていた。歴史地区は、古橋を中心に世界遺産にも登録されているそうで、中心地はホテルやらレストランやらが並んでいる。ふらふらお土産物なんかを見ていると、かつてのオスマン帝国支配の影響か、オリエントな雰囲気があって面白い。ここは完全に融合文化だ。観光地ではあるけれど、こぢんまりと落ち着きを保っていていい町だ。旧市街観光の中心で、民族紛争終結のシンボルでもある古橋は、中心が歪曲したアーチ状で、長さは30メートル程だろうか。幅は5メートルもない。上に行ってみると、外から見るよりかなり高く感じる。ブランコのはなしでは、夏にはここからダイブする人がいるらしいけど、本当だろうか。橋の中心地点、一番高い場所、その位置から町を眺めてみる。そうすると、この町の歴史をはっきり見ることができる。敵対していた民族の居住区が、ネレトバ川を境に分離されている。東側にはモスク、西側にはカトリック教会といった具合に。かつてのボスニア紛争で、セルビア人勢力とユーゴ連邦軍によって砲撃され、のちに、クロアチア人とボスニア人の間に起った紛争では、この川の両側に分かれての激戦となったらしい。ここからみるかぎり、傷痕と言えるはっきりしたものは見えないが、はっきりと見える民族の境界線がある。この境界線オンラインの位置から、その両方を眺めることができるのは、単一民族である日本人か、どちらの民族感情も持ち合わせない遠方からの旅行者か、勇気あるダイブ青年だけのようだ。今でも地元の人たちが、この線を超えることはあまりないと聞いた。
こうして美しい景色を眺めながら、いくら思いを馳せてみても、そこからつながる何かがあるとは思えない。全く自分と関係がないこの地域の特徴的な歴史や民族感情を見聞きしたところで、良心やら中途半端な正義感がくすぐられるようなこともない。そうなれば、この旅の経験は、どこで自分と重なるのか。そんなことを考えながら、もう一度橋の最上部から、はるか下の水面に目を向けると、ここからダイブする勇敢な青年の軌跡がはっきり描けた。両岸からはたくさんの見物人の視線が集まっていて、水面に青年の顔がひょっこり浮かび上がった瞬間、大歓声が起こる。東西が一つになる瞬間かもしれない。想像の世界から聞こえてくる聴衆の手拍子に促されて、目の前の手すりの上に立ってみようか。そこに立った時、分離された左右の居住区を意識するだろうか。町の外壁に、内戦の爪痕を探すだろうか。なるほど、そういうことか、なんだか見えてきたぞ。はっきりはしないけれど、少しずつみえてきた。過去にとらわれて現在が見えていない自分の姿が。
モスタルの旧市街、世界遺産、古橋の上にて。飛び込む勇気はないとしても、この旅の本質に気づき始めている。
つづく
Mateo=Rich
>夏にはここからダイブする人がいる
返信削除郡上の端を思い出しました。
何て言うか・・・
所変わっても
恐らく時代が変わっても
きっとみんな思うことやること、おんなじ。
そういうのって、世界中どこいってもやってける気がする。
ちょっとおもいしろい。
しの
>こうして美しい景色を眺めながら、いくら思いを馳せてみても、・・・
返信削除このあたりを読み、一瞬、もうマテオさんにとっての
楽しみとか希望とかの類いはなくなってしまったのかと
心配しました。でも最後を読み安心しました。
この旅の本質、自身の人生の本質のようなものに
気付くための旅であったことが見えてきたのですね。
私が言うのは恐縮ですが、おめでとうございます
と言いたいです。
MrYujician