13 ロングラン
ルノーは、ネレトバ川を下っている。首都ザグレブを目指すには、アドリア海へ出るまではもと来た道を戻り、そこからは、海岸沿いを最寄りのインターチェンジまで北上することになる。この旅一番のロングラン。すでに陽は傾き午後三時を回ったところ。はたしてどれくらいかかるだろうか。ブランコはというと、例の大きめのサングラスに半笑いの表情、放つオーラは冷静沈着、すごい自信だ。気のせいかいつにも増して快走を見せるルノー。なんだか懐かしい感覚、ブレッドからオパティアを目指した時も、アドリア海へ突き抜けんばかりの勢いがあったことを思い出す。あの時はまだ案内人と旅行者の間柄でしかなかった二人も、いつの間にか、噛み終えたガムを受け取って紙で包んで捨ててあげるほどの仲だ。まだ出会って数日しかたっていないのに、もうずいぶん長い時間を共にしているように感じる。いまや車内の沈黙にも、気まずさはともなわない。大陸にしては源流から河口までの距離が短いネレトバ川だから、さっきまであんなに深い谷底を流れていたのに、少し進むだけで水面はすぐそこ、アドリア海が近づいているのがわかる。こんな風に、少しずつザグレブへ近づいていることを実感するたびに、この旅のカウントダウンが始まっているようで、うれし悲しい、複雑な気持ちになる。そんな風に一人で車窓に思いを馳せていた。
それにしても、モスタルを出てかれこれ一時間半以上はたつというのに、いったいいつになったら海に出るのだろうか。そう思って、今度は注意深く外の景色を観察してみると、なんだか行きとは違う道を走っているような気になってくる。ルート変更があったのだろうか。意外とブランコは気まぐれなところがあるから。ヨーロッパへ到着した初日の宿も、スロベニアのホテルに泊まる予定だったのに、翌朝気づいたらまだオーストリアにいたことがあったしなあ・・・。そんなことを思い出している間に見えてきた道路標識には、この先スプリット、ザグレブとある。なるほど、これはすでに北上を始めている。いつの間にかのコース変更だ。臨機応変に最短コースを選んでいく、さすがはクロアチアン・シューマッハだと言ってやった。こちらに向かって右手の親指を立て、この旅最高の笑顔で応えるブランコを見て、本当にいい奴だ、と思った。オーケイ、ブランコ。アウトバーンはすぐそこだ。一気に都へ乗り込もう。
クロアチアに制限速度はあるのだろうか。この旅一番の猛スピードで、他の車を圧倒している。山地を抜けて、左手にはアドリア海が見えかれしている。はるか遠くに見える大きな町の明かりは、スプリットの町だ。ずいぶんと早い。最寄りのSAで最初のピットストップ。ガスリンスタンドとコンビニエンスストアが一つになったお馴染みのスタイル。キリット冷えたレッドブルと現地調達の煙草、肌寒いSAで国籍の違う男が二人。少し照れながら、プライベートを語り始めたのはブランコだ。明日はガールフレンドと地元ザグレブでの週末を楽しみたいらしい。よくある話なのに、なんだか胸が熱くなった。感情を高ぶらせる雰囲気が、夜のSAにあるのは確かだけど、友人として受け入れられた気がしてうれしかった。明日から二日間はブランコとは別行動になる。三日後の昼には帰国の途に就く。ザグレブ郊外の空港まで車で送ってくれる予定だ。そう思うとブランコと過ごす時間もあとわずか。ますます胸が熱くなる。
現在地はスプリットから北へ二十キロほどの地点。ちょうど中間くらいだろうか。このペースなら今日中には到着できそうだ。まだ見ぬ都ザグレブの町並み。クリスマスモードの広場に待つ、友人ブランコの恋人の姿が目に浮かぶ。
つづく
Mateo=Rich


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